矯正歯科担当医 前園 佳織(まえぞの かおり)
日本大学歯学部付属歯科病院 歯科矯正学講座にいました。
大学病院の歯科矯正学講座(歯科矯正科)には長いこと在籍されていらっしゃったのですね?
矯正歯科治療は専門性の高い分野ですので、多くの矯正歯科医を志すDrは専門機関で長期間学んで治療に必要な一定の知識や技術を習得するのが一般的です。
特にその中でも認定医や専門医などは、自分で治療を行った患者さんのケースの発表や面接試験を経て、学会に矯正歯科治療に携わるための知識・技能を認められた資格となります。
一般の先生方にも独学で勉強されて矯正歯科治療に携わる先生方もいらっしゃいますが、患者様がどんな先生に歯並びについて相談したらいいのか迷ったときの指標とすることはできるかもしれませんね。
ご自身の矯正体験と矯正治療について
先生ご自身も矯正をなさっている?
はい。
中学生の頃に前から4番目の歯(小臼歯)を上下左右4本抜いてブラケット(歯の表面につける粒状の装置)とワイヤーを用いた矯正治療で治療をしました。
自分で矯正をしたいと思ったのですか?
はい。
特に父親が矯正治療の経験者であったこともあり、将来歯のことで悩んでほしくないと快く精密検査を勧めてくれました。
歯を抜いて治療したんですね。元気な歯を抜く…抵抗はありませんでしたか?
最初聞いたときは、正直ありましたね。
両親も驚いたみたいです、歯を抜かない方法はないのかな…と。
しかし、担当の先生が丁寧に説明してくださったので納得して治療を受けることができました。
担当の先生はもちろんのこと、治療を受けさせてくれた両親にも感謝しています。
歯を抜いて治療をする理由についてお聞かせいただけますか?
顎(アゴ)の大きさと歯の大きさに不調和がある場合、いわゆる歯がガタガタという状態…を治療する場合の選択肢としては3つです。
①顎の大きさを大きくする(歯が並ぶように土台を大きくする)
②歯を抜いてスペースを作る(イメージ的には、体格のいい人達を全員で狭い席に座らせることはできないので、間引きをして座れるようにする感じ)
③歯を前方にだして距離をかせぐ(もしくは少しだけ歯をスライスする場合もあります)
お子様のように成長期であれば、①のように顎(土台)自体を大きくすることが可能ですが、成人になるとそれが困難なため、歯と顎のバランスを補償するために②のように歯を抜く必要がでてきます。
もし歯を抜かないで治療をするためには、③のように前歯を前方に出して治療することとなりますが、前歯が前方に出ることによって口元も前方に出ます。
横顔を見たときに、唇がE-Lineという鼻の先と顎の先をつないだラインより少し内側に入った状態が美しいとされているのですが、歯を抜かないで治療をするとE-lineよりも口元が前方にでてしまうことがあります。
また、歯を土台の端ギリギリの位置で無理に外側に傾斜させて並べることになり、歯を支える外側の骨が吸収し、抜けやすくなってしまいます。
非抜歯で治療ができたとしても、将来的に多くの歯が抜けてしまっては意味がありません。抜歯した方がよいと診断されたケースは、歯を4本抜いたとしても、土台となる骨のいい位置に、いい角度で歯を並べることで将来的に温存できる歯の数は多いかもしれないのです。
なるほど…それで抜歯の必要があるわけですね。
はい。
口元の突出感や歯の軸を考慮して分析をした結果、仕方ない場合は抜歯を選択することとなります。
先ほど、子供のときに顎(土台)をひろげれば抜歯はしないですむというお話がでましたが…?
そうですね。
子供のときに矯正治療を開始することで、将来抜歯をせずに治療が行える可能性が高くなります。
また、子供の時は顎の成長がある時期ですので、成長のコントロールをすることで上下の顎の前後的な骨の位置関係を治すことができます。
(いわゆる出っ歯さんや受け口さんの状態)
例えば骨格的に出っ歯さんの場合、上顎の成長を抑制したり・下顎の成長を促進したりして上下の顎のバランスを整えることができます。
この骨格のずれの治療は子供の時にしか出来ません。
見た目でずれがないとしても、7~8歳ぐらいの成長が残っているお子様がいらっしゃるご家庭の親御様は一度矯正専門の先生に相談して精密検査を受けてみることをお勧めいたします。
成長をコントロールできる装置があるんですね!?
はい。
例えば、骨格的に出っ歯さんのお子様の場合は、ヘッドギアというお帽子のような装置を使って上顎の成長を抑制します。
また、低年齢のお子様でも受け口さんのお子様には「ムーシールド」と呼ばれるようなお口の周りの筋肉や舌の筋機能を整える装置を使うときもあります。
口の周りの筋肉と舌、歯並びとの関係
筋の機能を整える…?
歯並びが悪くなる原因の1つとして、歯を内側と外側から挟んでいる「お口の周りの筋肉」と「舌」のアンバランスがあります。
習癖などもそうです(指しゃぶりや舌を出す癖、頬杖など)。
力が強くかかる方や習慣的に押される方へと歯は動き、並んでいきます。
また、顎の成長においても舌の位置が正しいポジションにあることが大切です。
正常であれば舌は「スポット」と呼ばれる上顎のポジションにつくことで、その力で上顎は成長します。
受け口のお子様は舌が下顎に落ちていて、上顎に付いていないことで上顎の成長がうまくできず、下顎の成長がしやすい状態になっていることが多いです。
舌の位置・・・あまり意識したことがありません。
かもしれませんね。
そういった場合には、ムーシールド等の舌を上顎につける練習のできる装置を使って上下の顎の正常な発育を促すことで、受け口を予防・改善できることもあります。
また、通常の矯正治療でも装置を外した後の安定性や舌の使い方が大きな原因となったケースでは、舌やお口の周りの筋機能訓練(いわゆる筋トレですね)を併用し治療を行います。
舌の筋トレ、そんなことまでするんですね。奥が深い…。
ひまわりデンタルクリニックの矯正
ひまわりデンタルクリニックでの「矯正ラインナップ」をお伺いしたいのですが…
歯の表側にブラケットをつけワイヤーで並べるいわゆるワイヤーを用いた矯正治療と、症例は限られますがマウスピース(インビザライン、スマイルトゥルー)での矯正治療があります。
装置や治療法のメリット・デメリットについてしっかりお話しし、納得していただいた上で選んでいただいております。
患者様に応じて先ほど挙げたような筋機能を整える装置(ムーシールド、トレーナー等)を使用する場合もございます。
7~10歳の子供の矯正治療(Ⅰ期治療)では成長のコントロールをし、12歳以降の大人の歯(永久歯)が生え揃ったところでブラケットをつけワイヤーを用いて歯のガタガタをとり、咬み合わせを構築するⅡ期治療を行います。
大人の方の場合はこのⅡ期治療からスタートすることとなります。
相談には費用がかかるのですか?
無料で相談できます。
1回30分前後、0円でお話をきかせていただいております。
駒込院では特にお子様の患者様に多くご来院いただいておりますが、お子様の成長には個人差がございますので、気になることがあればまずはお気軽に相談していただきたいですね。
もう立派な大人…今から矯正治療じゃ遅いんじゃないか…?と思ってしまいがちですが。
そんなことはございません。
私の診させていただいている患者様の中には、60代の方もいらっしゃいますよ。
逆に言えば、いくつになっても矯正治療自体は歯がある限りできます。
治療によるメリットは大きいと思います。
その代わり、選択肢が減ったり、リスクが上がる…やはり10代の患者様と30代の患者様での歯の動き方は違います。
年齢を重ねるとリスクが増えるのですね。
そうですね。
例えるならば、私がここ(腕)に傷ができた場合10年前ならすぐに治った傷跡も、1週間経った今もまだ傷があります…というのと同じです。
どうしても加齢変化というのがつきまとってきます。
装置を外した後に「保定装置(リテーナー)」という後戻り防止の装置を使っていただくのですが、その装置もいつまでやったらいいか…というと厳密には終わりがないんですよね。
やはり加齢変化があります。
10年前とまったく同じなんてことは生き物ですから難しいので、定期的なメンテナンスやケアがなければ変わっていくものであるということはご説明していますね。
なるほど…そのほか知っておいてほしい事はありますか?
治療は「大変だよ」という話をします。
矯正治療は口を開けていつの間にか終わる治療じゃない、例えば「ゴムを掛けてほしい」などお願いをすることが多いです。
…それができないと仕上がりが悪くなったり、治療期間が延びてしまったりするので、必ず一緒に治療を進めてくれるかどうかというお話をしています。
「習い事」の感覚でやっていただくようにお話をしていますね。
ただしお子様の矯正治療に関しては、例えば骨格の改善が必要な場合はお母様が半ば強制的にやらせてしまう…というのもありかもしれません。
「子供の時に勉強をやっておいてよかった」「親御さんに感謝」というのも時にあると思います。
成長のコントロールに関しては、子供のうちにしかできないことですので。
患者さんとのお話から知ってほしいこと
印象に残っている患者さんはいますか?
どなたがというよりも、皆さんの装置が外れた時の満面の笑顔ですね。
装置が外れて、自分のきれいに並んだ歯を見て嬉しそうに笑う患者様はいつだって印象的で、私の頑張る源ですね。
最近「マウスピースで矯正したい」との相談も増えている…?
SNS等で一般的になり、希望される患者様も増えていますね。
しかし会ってお話をすると「私の場合は、ワイヤーの方がいいんですね」と、意外とすんなり説明を受け止めて下さることが多いのも「印象的」です。
矯正の方法によってゴールが違う?
「やはり仕上がりは違う」というお話をすると、皆さん納得されますね。
各治療法を選択する場合の仕上がりを、「点数化」してお話することもあります。
マウスピースがダメということはないのですが、マウスピースが選べない症例ももちろんあります。
数年後というよりは30年後、40年後…の長いスパンで考えて機能的に一番よい治療を受けたいというのは皆さん同じです。
自分にとって一番いい方法を納得した上で選択していただきたいですね。
歯の矯正のプロが一番いいと思う方法、ぜひ教えてほしいです。
メディアの影響か、昔に比べると「私は歯を抜いて治療したほうがいいですよね」とご相談にいらっしゃる方も増えていると感じます。
とはいえ、特に元気な歯を抜くとなるとやっぱり不安になると思います。
しかしガタガタの歯並びだと、歯を磨くのは大変です。
毎日歯医者さんにケアしてもらう訳にもいかないですよね。
日本では歯が悪くなってから歯医者にいくという意識が根強いですが、欧米では歯が悪くならないように予防のために歯医者に通います。
その為、矯正治療も「予防のための治療」という考え方が根付いています。
矯正治療をすることによって虫歯や歯周病のリスクが下がるということを一人でも多くの人が認知していただければいいなと思っております。
コストの面でも、将来失った歯へのインプラント、被せ物、そのためのケア…を考えてみても「矯正治療は高いし大変…」ということはなく、むしろ「自分の歯で健康に生きる時間が長くなる未来への投資」として捉えるのもいいのかもしれません。
マイブーム&患者さんへのメッセージ
先生のマイブームは?
患者さんの健康を預かる上で自分も健康でないと!と思って、朝にヨガをする習慣をつけました。
結構肩こりがひどいんです…。
早起きをするのは得意なので、10分とか15分とかやっています。
1日の最初に体がほぐれるといろんなことがうまくいくので、皆様にもおススメですね。
患者さんにメッセージを!
人生100年時代…長い目で見て人生を明るく楽しく生きていく上で矯正治療をうけることが、健康寿命を長くするための選択肢の一つだと思っております。
一人でも多くの方が笑顔になれるように、お手伝いができたら幸いですね。
インタビュー:2020/11/20